海外旅行傷害保険、国内旅行傷害保険、ショッピング保険など、損害保険会社が提供する保険が付帯しているクレジットカードは数多くあります。そして、海外旅行傷害保険と国内旅行傷害保険に関しては、一定の条件のもとであれば、これらを併用し、保険事故が起こった際の保険金の金額を上げることは可能です。
複数の海外・国内旅行傷害保険に加入していた場合の扱い
- 海外・国内旅行傷害保険が付帯しているクレジットカードを複数枚所持していた
- 損害保険会社が提供する海外・国内旅行傷害保険に別に加入していた
などの理由で、複数の海外・国内旅行傷害保険に加入していた場合、保険事故が発生した=保険金の支払い対象になるトラブルが発生したら、どのように保険金は計算されるのでしょうか。
複数のクレジットカードを利用した場合
最初に「海外・国内旅行傷害保険が付帯しているクレジットカードを複数枚所持していた」場合について、考えてみましょう。
死亡・高度障害保険金は最高額のものだけが適用される
まず、死亡・高度障害保険金に関しては、所持しているクレジットカードの中で、海外・国内旅行障害保険の適用条件を満たしているもののうち、最高額の保険金が適用されます。これだけだとわかりにくいので、例を用いて考えてみましょう。
<ケース1>
クレジットカード名 | 死亡・高度障害保険金の最高額 | 付帯条件 |
---|---|---|
A | 1億2,000万円 | 自動付帯 |
B | 5,000万円 | 利用付帯 |
<ケース2>
クレジットカード名 | 死亡・高度障害保険金の最高額 | 付帯条件 |
---|---|---|
A | 1億2,000万円 | 利用付帯 |
B | 7,000万円 | 自動付帯 |
その他の項目は合算できる
次に、死亡・高度障害保険金以外の項目(例:傷害治療費用)について考えてみましょう。死亡・高度障害保険金以外の項目に関しては、複数のクレジットカードを所持していた場合、合算することができます。具体的な数字例を使って説明しましょう。
<ケース1>
クレジットカード名 | 傷害治療費用の最高額 | 付帯条件 |
---|---|---|
A | 500万円 | 自動付帯 |
B | 300万円 | 利用付帯 |
実際に保険金を算定する際には、現地の医療機関に対して支払った額を上限として保険金が給付される仕組みです。
次に、このようなケースについて考えてみましょう。
<ケース2>
クレジットカード名 | 傷害治療費用の最高額 | 付帯条件 |
---|---|---|
A | 500万円 | 自動付帯 |
B | 300万円 | 利用付帯 |
具体的に受け取れる金額ですが、AとBの傷害治療費用の最高額に応じて按分し、計算されるのです。
- Aから受け取れる保険金の額:720万円 ÷ (500万円 + 400万円) × 500万円 = 400万円
- Bから受け取れる保険金の額:720万円 ÷ (500万円 + 400万円) × 400万円 = 320万円
法人クレジットカードは扱いが異なる
損害保険会社が販売する海外旅行傷害保険を併用した場合
一方、損害保険会社が販売している海外旅行傷害保険を併用した場合は、どうなるのでしょうか?
死亡・高度障害保険金も合算できる
まず、死亡・高度障害保険金については「クレジットカードに付帯した海外旅行傷害保険による死亡・高度障害保険金の最高額」と「損害保険会社が販売している海外旅行傷害保険金の最高額」が合算されます。具体的な数値例を用いて考えてみましょう。
<ケース1>
クレジットカード名 | 死亡・高度障害保険金の最高額 | 付帯条件 |
---|---|---|
A | 1億2,000万円 | 自動付帯 |
B | 5,000万円 | 利用付帯 |
このような状態で、万が一のことがあった場合、死亡・高度障害保険金として受け取れる金額の最高額は1億7,000万円(=1億2,000万円 + 5,000万円)になります。
その他の項目については扱いが同じ
死亡・高度障害保険金以外の項目に関しては、複数のクレジットカードを所持していた場合と同様、複数の海外旅行傷害保険による保険金を合算することができます。
<ケース1>
クレジットカード名 | 傷害治療費用の最高額 | 付帯条件 |
---|---|---|
A | 500万円 | 自動付帯 |
B | 400万円 | 利用付帯 |
この人が渡航先で大ケガをし、治療費として840万円請求された場合は、それぞれの海外旅行傷害保険から、以下のように保険金の給付が受けられます。
- Aから受け取れる保険金の額:840万円 ÷ (500万円 + 400万円 + 300万円) × 500万円 = 350万円
- Bから受け取れる保険金の額:840万円 ÷ (500万円 + 400万円 + 300万円) × 400万円 = 280万円
- 損害保険会社で契約した保険から受け取れる保険金の額:840万円 ÷ (500万円 + 400万円 + 300万円) × 300万円 = 210万円
複数枚のクレジットカードを使って海外・国内旅行傷害保険に加入するメリット
ここで、複数枚のクレジットカードを使って海外・国内旅行傷害保険に加入するメリットについて、考えてみましょう。
追加で保険料を支払わなくても保障を手厚くできる
最大のメリットは、死亡・高度障害保険金以外の部分に関しては、複数のクレジットカードを組み合わせることで、保障を手厚くできることです。
日本国内の場合、国民皆保険(全員が何らかの健康保険に入ること)の仕組みが導入されているため、病気やケガをしたとしても、保険証を出せば窓口での負担額は最大で実際にかかった治療費の3割で済みます。しかし、海外で病気やケガをした場合、治療費は原則として自己負担です。しかも
- アメリカ本土やヨーロッパのように、総じて医療費が高い国で病気やケガをした
- 医療事情がよくない国で病気やケガをしたため、医療事情が整った国に移送してもらうことになった
など、日本で同じ治療を受ける場合と比べると非常に高額な治療費になるケースもあります。このような事情を考えると、傷害治療・疾病治療の保障は手厚ければ手厚いほどいいのは言うまでもありません。
複数枚のクレジットカードを使って海外・国内旅行傷害保険に加入する際の注意点
一方、複数枚のクレジットカードを使って、海外・国内旅行傷害保険に加入する際には、いくつか注意すべき点もあります。特に、以下の6点は事前にしっかり確かめておきましょう。
- 利用付帯か自動付帯かを確認しておく
- キャッシュレス診療に対応したカードを1枚は持っていく
- 死亡・高度障害保険金を増やしたいなら別に海外旅行傷害保険に加入する
- それぞれのカードの適用条件を確認しておく
- 持病がある、危険なスポーツをする予定がある場合は要注意
- 家族特約を利用する場合は「家族」の範囲に気を付ける
1.利用付帯か自動付帯かを確認しておく
クレジットカードに付帯している海外・国内旅行傷害保険を利用する際には、適用条件を最初に確認しましょう。大まかに言うと、次の2つに分かれます。
利用付帯 | そのクレジットカードを使って旅行の代金を支払った場合にのみ、海外・国内旅行傷害保険による保障が受けられる。 |
---|---|
自動付帯 | そのクレジットカードの会員である限りは、海外・国内旅行傷害保険による保障が受けられる。 |
自動付帯の場合は、有効期限内のカードを持ってさえいればいいので、特に問題はありません。しかし、利用付帯の場合は「旅行に関する代金をクレジットカードで払うこと」が必要になるので、注意しましょう。
例えば、持っているクレジットカードでの海外・国内旅行傷害保険の扱いがすべて利用付帯だった場合、このように使い分けてみてください。
- 1枚目のクレジットカード:海外パッケージツアーや海外航空券の支払いに使う
- 2枚目以降のクレジットカード:空港に行くまでに利用する公共交通機関(電車、バス、タクシー、地方空港からの飛行機など)の料金支払いに使う
ちなみに、海外・国内旅行傷害保険が利用付帯している場合「公共交通機関を利用していること」が適用条件に含まれる場合がほとんどです。
2.キャッシュレス医療に対応したカードを1枚は持っていく
多くの損害保険会社で取り入れられている仕組みとして、キャッシュレス医療があります。これは簡単に言うと「損害保険会社で提携している海外の医療機関で診察・治療を受けた場合、治療費を損害保険会社が直にその医療機関に支払ってくれる」仕組みです。
出典:キャッシュレス医療のご案内|海外旅行保険(店頭契約)|海外旅行保険のエイチ・エス損保【公式】
一般的に、海外旅行傷害保険を利用できる場合でも、海外の医療機関で診察・治療を受けた場合、本来は一度自分で治療費を立て替え、後で損害保険会社に保険金として請求します。しかし、キャッシュレス医療に対応しているクレジットカードを使い、損害保険会社で提携している医療機関を使えば、一時的にでも立て替える必要はありません。金銭的な負担も減らせるので、上手に活用しましょう。
3.死亡・高度障害保険金を増やしたいなら別に海外・国内旅行傷害保険に加入する
万が一のことになったり、働けないほど重い障害が遺ってしまったりした場合、どれぐらいのお金が必要になるかは、その人が置かれた状況によって異なります。小さいお子さんがいるなど、まとまったお金を遺さなくてはいけない事情があるなら、クレジットカードに付帯した海外・国内旅行傷害保険だけではなく、損害保険会社で販売している海外・国内旅行傷害保険も併用しましょう。
4.持病がある、危険なスポーツをする予定がある場合は要注意
クレジットカードに付帯している海外・国内旅行傷害保険には「免責事項」が設けられています。簡単にいうと「保険金を支払わないトラブル」と考えましょう。
免責事項の中に含まれていることが多いのが
- 海外で持病(既往症)が悪化したことで治療を受けた場合の費用
- ロッククライミングやスカイダイビングなど、危険なスポーツをしたことで生じた死亡事故などのトラブル
の扱いです。
なお、損害保険会社では、通常より高い保険料(割増保険料)を払うことで、持病や危険なスポーツをする人についても、保障が受けられる保険を用意しています。
5.家族特約を利用する場合は「家族」の範囲に気を付ける
ゴールドやプラチナなど、ステータス(会員ランク)が高いクレジットカードの場合、海外・国内旅行傷害保険について家族特約が利用できることがあります。しかし「家族」とは誰を指すのかについては、クレジットカード会社によっても扱いがまちまちです。
例えば
- 生計を共にしている親族
- 生計を共にしている19歳未満の親族
など、範囲や年齢には、かなりばらつきがあります。クレジットカードを使って、家族の分の保険を賄いたいと思うなら「誰までならOKなのか」をしっかり確認しましょう。
複数枚のクレジットカードを使っていた場合のショッピング保険の扱い
多くのクレジットカードには、ショッピング保険などの名目で、そのクレジットカードを使って購入した商品が破損、盗難にあった場合、修理代や代替品の購入費用を保障するための保険が付帯しています。ショッピング保険が付帯しているクレジットカードを複数枚持っていた場合、扱いはどうなるのでしょうか。
合算はできないものと考えること
結論から言うと、合算はできないと考えましょう。理由は簡単で、ショッピング保険を適用するための条件として、「そのクレジットカードを利用して購入したこと」が設けられている以上、他のクレジットカードに付帯したショッピング保険を適用する余地はないためです。
損害保険会社が提供する動産保険を併用した場合の扱い
法人向けのものと比べるとかなり数は少ないですが、個人でも使える動産保険は存在します。このような保険であれば、クレジットカードのショッピング安全保険と併用することは可能です。
実際の損害額を超える給付は受けられない
もちろん、併用すること自体は可能ですが、実際に生じた損害額を超える保険金を受け取ることはできません。保険の本来の目的は「保障」です。
動産保険の約款には「他の保険と併用していたことで保険金が多額になった場合は、保険契約を解除する理由にもなり得る」旨が盛り込まれています。
保険法 第30条(重大事由による解除)
保険者は、次に掲げる事由がある場合には、損害保険契約を解除することができる。一
保険契約者又は被保険者が、保険者に当該損害保険契約に基づく保険給付を行わせることを目的として損害を生じさせ、又は生じさせようとしたこと。二
被保険者が、当該損害保険契約に基づく保険給付の請求について詐欺を行い、又は行おうとしたこと。三
前二号に掲げるもののほか、保険者の保険契約者又は被保険者に対する信頼を損ない、当該損害保険契約の存続を困難とする重大な事由