車両番号の書いてある法人ガソリンカードを自分の車に給油するときに使うのは厳禁。起こりうる4つのトラブルについて解説

営業など、外回りの多い仕事をしている人なら、会社から車両番号の書いてある法人ガソリンカードを渡されているかもしれません。しかし、これを使って、自分の車にガソリンを入れることは厳禁です。簡単に言うと「会社の経費を使い込んでいる=私的流用している」からなのですが、その意識が薄いと、とんでもないトラブルに巻き込まれるおそれもあるので、注意しましょう。

車両番号の書いてある法人ガソリンカードを自分の車に給油するときに使うと起こるトラブルとは?

車両番号の書いてある法人ガソリンカードを自分の車に給油するときに使うと起こるトラブルとは?

そもそも、車両番号の書いてある法人ガソリンカードを自分の車に給油するときに使うと、どんなトラブルが起こるのでしょうか。一般的に起こりうるトラブルとして、次の4つをまずは照会しましょう。

  1. 店員に利用を拒否される
  2. 社内の経理担当者に追及される
  3. 会社をクビになる
  4. 横領罪で逮捕される

1.店員に利用を拒否される

店員が給油などのサービスを行うスタンド(フルサービススタンド)の場合、法人ガソリンカードも含めた決済用カードや、現金などに不審な点がないかどうかは、店員がチェックしています。店員がチェックした結果、車両番号の違いを指摘されたらまず給油はできません。

2.社内の経理担当者に追及される

逆に、店員のチェックがないセルフスタンドでは、やろうと思えば車両番号の書かれた法人ガソリンカードを使って自分の車に給油することはできるでしょう。しかし、後日、経理担当者に給油した際の利用控えは渡さなくてはいけません。経理担当者は利用控えを会社に届く利用明細書と突き合わせて確認するので、不審な点があったら追及されるのは目に見えています。

3.会社をクビになる

会社にとって、会社の経費を私的流用する社員には働き続けてほしくないはずです。私的流用が頻繁に行われていたり、聞き取り調査に誠実に応じなかったりした場合は、当然「会社の規律を乱す」ことを理由に解雇することもあり得ます。実際のところは、懲戒解雇にするには法律上の厳格な要件が必要なので、諭旨退職・諭旨解雇にとどまるケースも多いですが、それでも「会社をクビになる」ことには変わりません。

4.横領罪で逮捕される

もちろん、会社の経費を私的流用したことが原因で、懲戒解雇や退職勧奨が行われても、それだけで逮捕されるわけではありません。しかし

  • 私的流用していた金額が巨額だった
  • 話し合い=示談が成立しなかった
  • 職業倫理に著しくもとると判断された

など、相応の理由がある場合は、会社側は弁護士を立て、横領罪として立件できないかどうかを警察に相談します。警察との相談の結果、被害届・告訴状が提出されたら逮捕されると考えましょう。

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個々のケースによって扱いは異なりますが、4の「横領罪で逮捕される」までいくケースはまれです。しかし、3の「会社をクビになる」までいくケースは比較的多いので、注意してください。ここから先は、それぞれの段階について詳しく解説していきます。

1.店員に利用を拒否される

1.店員に利用を拒否される

フルサービスのガソリンスタンドで法人ガソリンカードを使う場合、記載されている車両番号(車のナンバープレートに記載されているひらがなと数字)を店員がチェックしています。当然、記載されている車両番号と違う車両番号の車がやってきた場合、不審な点があるとみなし、その件について質問してくるはずです。最終的には「記載されている車両番号と違うので給油ができません」と言われて追い返されると考えましょう。

理由「利用する車両が限定されている前提だから」

なぜ、このようなことが起こるのかについて、理由を考えてみましょう。法人ガソリンカードの基本的な仕組みは以下の通りです。

  • 利用を希望する事業主、個人事業主が石油元売り会社および提携しているクレジットカード会社に対して申し込みをし、審査を受ける
  • 審査の結果、発行が決定したら「ガソリンカードを利用して給油を行う予定の車両」について情報を提供する
  • 石油元売り会社およびクレジットカード会社は提出された情報に基づき、ガソリンカードの発行を行う

つまり、発行の際には、その法人ガソリンカードを利用する予定の車両について情報を提供することが必須であると考えましょう。そして、実際に届く法人ガソリンカードにも、利用できる車両番号は記載されています。

ガソリンスタンドで給油する際に、実際にやってきた車の車両番号と法人ガソリンカードに記載されている車両番号を照合することで、不正利用が行われない仕組みになっているのです。

セルフだと使えてしまうこともある

一方、店員が基本的には対応しないセルフサービスのガソリンスタンド(セルフスタンド)だと、車両番号が記載されている法人ガソリンカードを使って、自分の車に給油することができてしまいます。

ほとんどのガソリンスタンドでは、防犯上の観点から、防犯カメラを設置して店舗の営業中の様子を記録しています。そのため、法人ガソリンカードを使って自分の車に給油する様子ももちろん記録されているのですが、防犯カメラの画像を会社の関係者がチェックすることはまずありません。

プライバシー保護の観点から、裁判上必要と認められた場合のみ許可するなど、厳しい規制が設けられています。
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使おうと思えば確かに使えますが、これから説明するように、トラブルの火種にしかならないのでやめてくださいね!

2.社内の経理担当者に追及される

2.社内の経理担当者に追及される

たとえ、セルフスタンドで車両番号が記載された法人ガソリンカードを利用して、自分の車に給油できたとしても、いずれは会社にばれます。経理担当者がチェックしているからです。

理由「明細書と照らし合わせてチェックしているから」

法人ガソリンカードを利用している会社には、毎月1回、利用明細が届きます。経理担当者は社員から提出された利用控えと利用明細書を照らし合わせ、不審な点がないかを確かめているのです。

なお、発行されている法人ガソリンカードの種類によっても多少の差はありますが、利用明細には次のことが記載されています。

  • 利用した日時
  • 利用したガソリンスタンドの店名(例:「ENEOS 池袋SS」)
  • 給油したガソリンの種別(レギュラー、ハイオク、軽油)
  • 給油量および料金

業務日報から行動もチェックされている

特にチェックされやすいのが、利用した日時と利用したガソリンスタンドの店名です。ほとんどの会社では、社員に業務日報を提出させ、その日にどんな仕事をしていたのかを記録しています。

営業に出ていたり、取引先を訪問していたりしていた場合、どこに行ったのかも書くはずですが、通るはずのない場所で給油していたら、足がつく可能性が高いでしょう。また、本来の営業日でない日(例:土日祝日)に利用していたら、明らかに「仕事以外の理由でガソリンを給油した」ととらえられてしまいます。

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イレギュラーなことがあったとしても「それが仕事とどう関係しているのか」を説明できれば、そこまで大ごとにならない場合も多いです。イレギュラー対応が生じそうな場合は、早めに会社と連絡を取り、指示を仰ぎましょう。

3.会社をクビになる

3.会社をクビになる

経理担当者が異変に気付いた場合、会社が調査に入ります。当然、事情聴取も行われるはずですが、話し合いの結果次第では、減給、降格、退職勧奨など、しかるべき措置が行われるでしょう。また、特に悪質と判断された場合は、懲戒解雇(公務員の場合は懲戒免職)もあり得るはずです。

理由「会社の規律を乱したから」

これらの処分が行われる理由として「会社の経費を私的流用し、会社の規律を乱したから」が挙げられます。

本来、車両番号が記載された法人ガソリンカードは、あくまで「仕事上で車による移動が必要な場合、そのガソリン代を賄うために社員に貸与されるもの」です。つまり、会社の経費を払うためのカードである以上、自分の車に給油するために使ったら、それは私的流用=経費の使い込みでしかありません。

従業員が自由に会社の経費を使えてしまうと、経費がいくらあっても足りないことになり、会社の経営が立ち行かなくなってしまいます。そのため、会社は法人ガソリンカードの扱いも含め、経費の扱いに関して厳しい規定を設けているのが実情です。そして、規定に違反している社員については、処分が下されるのも当然と考えましょう。
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ちなみに、法律上の処分は、次の7段階に分かれています。
種類 概要
戒告・譴責(けんせき) 従業員への注意・指導。なお、譴責の場合、始末書を提出するのが一般的。
減給 「半年間は給与を3分の1減らす」など、一定の範囲内で給与を減らす。
出勤停止 社員としての身分は保たれるが、期間を定めず会社に出勤できなくなる。なお、その間の給料は発生しない。
降格 「部長から係長へ」など、具体的な役職の降格がある。
諭旨退職 企業が退職(解雇)を勧告し、従業員が従えば自主退職、従わなければ懲戒解雇とする。
諭旨解雇 企業が解雇を予告、もしくは解雇予告手当を支払い、加えて退職金を支払った上で従業員を解雇する。
懲戒解雇 制裁として行われる。解雇予告手当および退職金は支払われない。なお、離職票には懲戒解雇による退職であることが記載される。
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諭旨退職・諭旨解雇・懲戒解雇が世間でいうところの「会社をクビになる」に近いですね!

懲戒解雇まではいかなくても諭旨退職は十分あり得る

処分が下されるのも当然、と書きましたが、実際のところ、日本の法律においては、労働者は手厚く保護されているため、懲戒解雇の処分を下すのは非常に難しくなっています。

まず、会社側が従業員を懲戒解雇するためには、就業規則に規定が盛り込まれていないといけません。

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「刑事犯罪に該当する行為を行った場合は懲戒解雇とする」などの一文が盛り込まれているかがポイントになります。

その上で、懲戒解雇を行う原因が「客観的に合理的」で「社会通念上相当である」ものでなければ認められない点にも注意しましょう。

簡単にまとめると、ほとんどの人が「会社をクビになっても仕方がない」と納得する理由があるか、ということです。

労働契約法 第15条

第15条
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

「客観的に合理的」で「社会通念上相当である」と認められる例としては、以下のケースが考えられます。

犯罪や不正行為があった 殺人などの重大な犯罪や、横領など業務上の立場を利用した不正行為をした。
職場風紀を乱し他の労働者に悪影響を及ぼしていた 強制わいせつや恐喝、暴行とみなされるほどのセクハラ、パワハラをしていた。
重大な経歴詐称 「履歴書に大卒と書いたけど実は高卒だった」「税理士試験合格と書いたけど本当は簿記2級しか持って居なかった」など、業務に直結するような学歴や職歴などを偽っていた。※履歴書のちょっとした書き間違いぐらいでは、経歴詐称にはあたらない。
長期間の無断欠勤をして出勤の督促にも応じない 正当な理由なしに2週間~1ヶ月など長期欠勤し、会社からの出勤命令にも応じなかった。
遅刻や早退が著しく、再三の注意や処分によっても改善されない 何度も注意されたにもかかわらず正当な理由なしに遅刻や早退を繰り返し、職務に影響があった。
懲戒処分があっても業務命令違反を繰り返す 何度注意されても業務命令に従わない、懲戒処分を受けたにもかかわらずその行為を繰り返す。
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もちろん、業務命令が不適切であったり、正当な理由があったりした場合は、「客観的に合理的」で「社会通念上相当である」と認められる可能性は低いです。

車両番号が書かれた法人ガソリンカードを自分の車のガソリンを入れるために流用していた場合は「犯罪や不正行為があった」ことを理由に懲戒解雇に踏み切られる可能性が高いでしょう。また、何度も繰り返し、その度に会社から注意されていたにも関わらずやめなかった場合は「懲戒処分があっても業務命令違反を繰り返す」が理由になる可能性が高いです。

それでも、従業員が懲戒解雇処分を不当とし、労働審判で争った結果、最終的に不当解雇と判断されてしまうと、会社は本来払うべきだった退職金に加えて、損害賠償も払わなくてはいけません。このような実情を考えると、私的流用された金額がそれほど多くなく、示談が成立しそうであったら、諭旨退職や諭旨解雇を選ぶケースが多いでしょう。

4.横領罪で逮捕される

4.横領罪で逮捕される

既に触れた通り、会社から貸与された車両番号が記載された法人ガソリンカードを使い、自分の車に給油するのは経費の使い込み=私的流用にあたります。そのため、諭旨退職・諭旨解雇・懲戒解雇を含め、社内ではなんらかの処分が下されるはずです。しかし

  • 金額があまりに大きく、返してもらえそうにない
  • 私的流用を長年にわたって行っていた

など、悪質と判断された場合は、最終的に横領罪で逮捕されることもありえます。

理由「会社の経費を私的な目的に流用したから」

横領罪も簡単に言うと「会社の経費を私的な目的に流用した」ことによる罪です。横領罪が成立する要件としては

  1. 業務性
  2. 委託信任関係に基づく占有
  3. 他人の物であること
  4. 横領

の4つが必要になります。

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難しい言葉なので、車両番号が記載された法人ガソリンカードについて当てはめて考えてみましょう!
業務性 仕事上必要なものであったこと
委託信任関係に基づく占有 「仕事上、ガソリンの給油が必要な時に使うためのカード」として説明を受け、預かっていたこと
他人の物であること 本来は会社がクレジットカード会社や石油元受け会社から貸与されているものであること
横領 許可がないのに、自分の車のガソリンを入れるために使うこと

実際に逮捕されるとは限らない

もちろん、会社から貸与された車両番号が記載されたガソリンカードを使って、自分の車にガソリンを入れたところで、すぐに逮捕されるとは限りません。一般的には、以下の流れをたどります。

社内で調査を行い、関係者への聞き取りを行う。

調査、聞き取りの結果、損害額の返還および社内での処分をまずは検討する。

悪質性が高いと判断した場合、弁護士に横領罪での立件を前提に相談する。

弁護士は相談を受け、横領罪による被害届・告訴状の提出を行う。その後、弁護士および会社関係者が警察と打ち合わせを行う。

受理されれば横領罪により逮捕され、裁判を経て刑の確定・執行が行われる。

この流れからもわかるように、損害額の返還および社内での処分が行われれば、横領罪としての立件まではいかないケースも多々あります。しかし

  • 金額があまりに大きく、返してもらえそうにない
  • 私的流用を長年にわたって行っていた

など、悪質な事例と判断されれば立件される=逮捕される可能性も上がるのです。もちろん、逮捕され、裁判を経て有罪が確定してしまえば、会社も懲戒解雇になる上に、その後の就職も非常に難しくなります。

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自分では「そんなに悪いことをしていない」と思っても、会社や警察がどう判断するかはわかりません。まずは、明らかに疑われることをしないのが一番です。会社から貸与された車両番号付きのガソリンカードは、帰宅するときは経理担当者に預けていくなど、自益策も講じておきまそう。もちろん、あらぬ疑いをかけられた場合は、弁護士さんと相談して対策を立てるのは大事ですよ!

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