営業など、外回りを伴う業務が多い会社の場合、法人ガソリンカードを社用車を利用する社員向けに貸与していることがあります。社用車で外に出ている間に、ガソリンが切れそうになったらその法人ガソリンカードを使って給油し、後日、経理担当者に利用者控えなどの必要書類を提出する仕組みです。
そこで「会社から貸与された法人ガソリンカードを使って、自分のプライベート用の車に給油していいのか」を考えてみましょう。感覚的にダメだということはほとんどの人が理解しているはずですが
- なぜダメなのか
- 万が一、会社にばれるとどんなトラブルに巻き込まれるのか
まで、正確に理解している人は少ないはずです。そこで今回の記事では、このあたりをはっきりさせるとともに、会社から貸与された法人ガソリンカードを使う上での注意点をお伝えしたいと思います。
会社から貸与された法人ガソリンカードはセルフスタンドで使える?
最初に、そもそも会社から貸与された法人ガソリンカードをセルフスタンドで使うことができるのかについて、考えてみましょう。
【前提】フルサービスでのスタンドではチェックされる可能性が高い
法人ガソリンカードには、車両番号や管理名称が1枚1枚ふられていることがほとんどです。
出典:出光Bizカード プラス – 法人 カード一覧 – 出光カード
ガソリンスタンドの中でも、給油から料金の支払いまでをすべて自分で行う店舗を「セルフスタンド」というのに対し、店員がすべて行う店舗を「フルサービススタンド」と言います。そして、フルサービススタンドの場合、店員が法人ガソリンカードも含め、決済用カードの不正利用がないかをチェックしているのです。
【結論】やろうと思えば使えるが使わない方がいい
一方、セルフスタンドの場合、ガソリンを給油できないなどのトラブルがない限りは、店員と接することはありません。そのため、やろうと思えば会社から貸与された法人ガソリンカードを使って、自分の車に給油することもできてしまいます。しかし、これは以下の理由から、絶対におすすめできないので注意してください。
- 経理担当者は行動履歴や過去の実績からおおよその利用量を推計している
- 法人ガソリンカードの利用明細には「利用日」や「利用地区」が印字される
1.経理担当者は行動履歴からおおよその利用量を推計している
外回りをする人が多い会社の場合「誰がいつ、どこに行くのか」という予定は共有されているはずです。そのため、1日の移動距離はおおよそではあるものの、推計できるでしょう。移動距離がわかれば、そのために必要になるガソリンの量も、おおよそ把握できるはずです。もちろん、ガソリンの量がわかれば、大体の請求額も推測できるでしょう。
2.法人ガソリンカードの利用明細には「利用日」や「利用地区」が印字される
また、法人ガソリンカードの利用明細は、その会社に対して発行しているすべてのガソリンカードについての明細を取りまとめた上で、会社(経理担当者)に届けられます。経理担当者は毎月一定日を定めて、その内容をチェックするのです。利用明細には「利用日」「利用商品」「数量」「金額」「利用地区」などが記載されますが
- 土日祝日など、本来、営業日でない日に法人ガソリンカードが使われていた
- 営業所や取引先が近隣にない地域で法人ガソリンカードが使われていた
などの場合、不正利用が疑われると考えましょう。
なぜ、貸与された法人ガソリンカードをセルフスタンドでマイカーの給油に使うのが問題になる?
会社から貸与された法人ガソリンカードを、セルフスタンドでマイカーに給油するために使うと、いずれ会社に発覚することは、わかってもらえたはずです。しかし、なぜこれが問題になるのか、根拠になる法律も用いながら、解説しましょう。
簡単に言うと「会社の経費を使い込みしたことになる」から
結論を簡単にまとめると「会社の経費を使い込みしたことになるため」です。難しい言葉を使うと「業務上横領」といいます。
自家用の車のガソリン代を会社に請求したら、業務上横領♡
— ともᑦᑋᵃᵑ*୨୧*˚· (@omaerakirai_78) January 8, 2013
業務上横領とは
わかりやすい例としては「経理担当者が、管理を任されていた会社の事業資金を、ギャンブルで負けた分の埋め合わせをするために使った」などが挙げられるでしょう。
刑法253条
業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、10年以下の懲役に処する。
業務上横領で逮捕される条件とは?
もちろん、会社から貸与された法人ガソリンカードを使いこんでいたからといって、常に業務上横領の罪で逮捕されるわけではありません。数万円~数十万円程度なら示談=話し合いで解決する方が現実的だからです。
しかし、以下の3つの条件が揃えば、業務上横領の罪で逮捕されるおそれが非常に高くなります。
- 示談が成立しなかった
- 使い込みをした金額が大きかった
- 会社から被害届・告訴状が提出された
それぞれの項目について、詳しく解説しましょう。
1.示談が成立しなかった
会社から貸与された法人ガソリンカードなどのように、会社の資産を自分のために使い込んだ場合、まずは会社側から事情を聴かれることになります。経緯を調べた上で「損害額を弁償すればいい」という形で話がまとまることだって、もちろんあるのです。このように、話し合いで解決することを「示談」と言います。
2.使い込みをした金額が大きかった
業務上横領において、示談を成立させられるかどうかの1つの基準になるのが「横領した=使い込みをした金額」です。一般的な傾向として、横領した金額が大きければ大きいほど、刑事事件として扱われる可能性が高くなります。数千万円にも上る横領の場合、まず犯人(容疑者)が逮捕されると考えましょう。
2018年2月まで住友重機械工業に勤めていた田村容疑者は、労働組合の会計を1人で担当。2013年12月、組合員の積み立て年金口座から5000万円を自分の口座に不正に送金し、着服した疑いが持たれている。警視庁は、同様の手口で着服した金額は6億4000万円に上ると見ている。
出典:着服した金で馬6頭・高級外車購入し笑顔…総額6億円超か?家賃6万円のアパートに住む女逮捕
拾得物として預かった1万円を横領したとして、大阪府警は22日、業務上横領容疑で城東署地域課の巡査野沢拓海容疑者(21)を逮捕した。容疑を認め、「生活費の足しにしたかった」と話しているという。
出典:落とし物の1万円横領容疑 巡査を逮捕―大阪府警:時事ドットコム
3.会社から被害届・告訴状が提出された
示談がまとまらない場合、最終的に会社は法的手段に踏み切ることになります。そこで初めて、法律(刑法)状の犯罪として扱われ、逮捕される可能性が出てくると考えましょう。
会社が法的手段に踏み切ったかどうかを判定する1つの基準が「会社が被害届・告訴状を提出したか」です。
- 被害届:被害を受けた事実を記載した書面
- 告訴状:被害を受けた事実と加害者の処罰を求める意思表示を記載した書面
示談がまとまらなかった場合、会社は担当弁護士と連携し、被害届と告訴状を警察署に提出することになります。裏を返せば、これらの書類を警察署に提出しない限りは、刑法上の犯罪として扱われることも、ましてや逮捕されることもありません。
上のコメントにもあるように、万引きなど経緯がわかりやすい窃盗事件の場合は、被害者が警察署に被害届・告訴状をその日のうちに出し、逮捕するということが現実的に可能です。しかし、万引きに比べると、業務上横領は、横領が行われた経緯などを詳しく調べないといけないため、まずは捜査員が関係者から「相談」という形で話を聞くのが一般的な流れです。
逮捕されなくても会社にはいられなくなる可能性が高い
これまで説明した通り、会社から貸与された法人ガソリンカードを私的流用するなど、業務上横領に当たることをしたとしても、それだけで逮捕されるとは限りません。示談がまとまり、刑事事件にまでは発展しないケースがほとんどでしょう。
しかし、刑事事件にまでは発展しなくても、会社ともめる原因になるのは確かです。ここでは、起こりうるトラブルとして
- 民事責任が追及される
- 懲戒解雇の対象になる
の2点について解説しましょう。
1.民事責任が追及される
業務上横領が行われた時点で、会社には「本来は、仕事上の支出として使うつもりの資金を、従業員の私的な用事のために使い込まれた」という損失が生じています。そうなると、その損失を取り返すための行動も必要になるのです。そこで、会社は弁護士と連携し、民事責任を追及することになります。つまり
- 裁判所に仮差押えの申立をし、払う予定の給料の一部を払わないなどの対抗措置をとる
- 民事訴訟を起こし、裁判を開いて責任の追及を行う
などの具体的な行動が起こされるのです。
2.懲戒解雇の対象になる
実態はどうであれ、本来、日本において、労働者の権利は、法律で手厚く保護されています。つまり、よほどの理由がない限り、いきなりクビになる=即日解雇されることは、あり得ません。これらについて規定した法律の条文を確認しておきましょう。
労働契約法第15条
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効となる。
労働契約法第16条
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
裏を返せば「客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められる場合」は、解雇をすることができます。
- 窃盗や横領、傷害など、刑法犯に該当する行為があった場合
- 賭博などによって職場規律や風紀を乱し他の労働者に悪影響を及ぼす場合
- 当該業務に必要となる資格や免許を有していないなどの経歴詐称をしていた場合
- 正当な理由なく2週間以上無断欠勤し、出勤の督促にも応じない場合
- 遅刻や中退が著しく、再三の注意や処分によっても改善されない場合
- 他の事業所へ転職をし、労務を行なえない場合
今回話題になっている「会社から貸与された法人ガソリンカードを使って、自分の車にガソリンを入れていた」のは
- 窃盗や横領、傷害など、刑法犯に該当する行為があった場合
- 賭博などによって職場規律や風紀を乱し他の労働者に悪影響を及ぼす場合
のいずれかに該当するでしょう。もちろん、示談がまとまれば解雇にはならないまでも、自主退職を促されることは十分あり得ます。
会社ともめずに法人ガソリンカードを使うための3つのポイント
最後に、会社から貸与された法人ガソリンカードを、会社ともめないで使うために意識すべき3つのポイントをお伝えしましょう。
- 退社する際に会社に預けて帰る
- 自分の車を持ち込んでいる場合は扱いを経理担当者と確認する
- うっかり使ってしまった場合はすぐに会社に報告し、対応を仰ぐ
1.退社する際に会社に預けて帰る
会社から貸与された法人ガソリンカードは、仕事が終わり、家に帰る前に経理担当者など、法人ガソリンカードの管理をしている人に預けて帰りましょう。手元になければ、自分の車に給油するときに使えるはずがないので、疑われようもないはずです。また、預けて帰れば、会社から家に帰るまでの間に持ち歩くこともありません。
2.自分の車を持ち込んでいる場合は扱いを経理担当者と確認する
職場によっては、仕事をする上で自分の車を持ち込むことができる場合があります。このような場合
- ガソリン代はどうやって負担するのか
- 自動車保険はどうかけておけばいいのか
など、車の扱い方については、事前に経理担当者をはじめとした、会社の関係者と確認しておきましょう。
3.うっかり使ってしまった場合はすぐに会社に報告し、対応を仰ぐ
いくら注意していたとしても、ミスを完全になくすことができないのが人間です。会社から貸与された法人ガソリンカードを、プライベートでうっかり使ってしまうこともあり得ます。もし、そのようなことがあった場合、すぐに会社に報告し、対応を仰いでください。